第1講 講議資料


 大量の砂を詰め込んだ土蔵の壁

土蔵を持つような人は、土蔵破り対策のために扉にしっかりとした錠前を取り付ける。それだけでは安心ができない人もいて、ついに分厚い壁を利用したある方法を考えだした。その方法とは、壁を二重にして空洞を作り、その中に砂を一杯詰め込むことだった。
 二重になった壁のうち、盗賊がたとえ外側の壁に穴をあけても、そこからは砂がどんどん流れ出すため盗賊は仰天して土蔵破りをあきらめるであろう、との思惑が働いたようだ。
うかつにも私はそうしたエ夫で、盗賊が本当に土蔵破りをあきらめた実例があったかどうかをご主人からお聞きしなかったが………

 
 鉄製の大きな斟を肋込んだ土蔵の壁

知多半島の大野といえば、室町時代から鍛冶が居住し、武具や馬具の製作に当たっていた。大野鍛冶と呼ばれる鍛冶集団である。平和が続く江戸時代になって、農具の製作と修理を仕事とする農鍛冶と船道具、舟釘などの製作に従事する舟鍛冶に分かれたが、伝統技術は受け継がれた。宝暦年間(18世紀中頃)には、岡田村にも鍛冶株を持つ鍛冶職人が住むようになったと資料に見える。
さて、土蔵破りをどうしても阻止したい持ち主は、鍛冶屋に目をつけ、鉄製の背の高い大きな格子を作らせた。これを新しく建てる土蔵の壁の中へ埋め込ませたのである。盗賊が壁に穴をあけようと途中まで崩してはみたものの、そこに見たものがなんと鉄製の格子では……。
 これで土蔵破りが撃退できる、とニンマリしている土蔵の持ち主の額が目に見えるようである。

 
 土蔵は他人に見せるな、話すな

今回の調査中こんなことがあった。生徒がアンケートを持って家々を訪ねていた折、ある家に伺ってお婆さんに調査の趣旨を説明し始めた途端、「うちには関係ない!」ピシャリと断られてしまった。「土蔵はあるのに…」と班長は不満額で帰ってきた。「答えたくなぃ」ならまだ分かるが……と思ったので、私はなんとか手立てを講じてその娘さんから直接話をお間きした。
「母は嫁いできたとき、舅や姑から『土蔵については他人に見せるな、話すな』と、きつく言われたそうで、今に至っても……」とのお話。土蔵はその家にとっていかに大事なものであったかを、はからずも知ることができた。